孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




そうじゃない。

あとこういうときにお嬢様扱いしてくるのも、ちょっと嫌。


ひとつ嫌なことが見つかると、釣られるようにこれも嫌ってなる。



「機嫌なおしてよ、オジョーサマ。どっか具合悪いならお腹さするし、なんかあったなら話聞くし」


「つぎ、お嬢様って言ったら…っ」


「…言ったら?」


「……頬っぺたつねる。強めに」


「ふはっ!…あっ、ごめん。それは大変だ、痛いねケガするよ」



こうなると言葉や行動じゃないところから聞くしかないと思ったのか、海真くんはピアノに近づいて椅子に座った。

音量を軽く調節して、ペダルを確認する。


そして流れてくる、緩やかながらも会話をするような音。


こんな夜には最適すぎるドビュッシーの「月の光」だ。



「…あいつのこと?」


「……ちがうよ」


「なら、おれのこと?」


「……………」


「もはや否定さえしてくれない」



まるでそんな歌詞でもついているかのように、弾きながら心地のいい声で話してくる。

内容が内容だから、これを歌詞にはしたくないけれど…。



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