孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
あの悲しすぎたピアノの音色は、きっとお姉さんへの後悔の音。
「おれ、家族みんなに置いていかれちゃったけど。……ののちゃんがこっちの世界にいるなら、おれはこっちのほうがいい」
初めて、彼の涙を見た。
言葉では言い表せないくらい綺麗だったから。
触れていいのか怖くなってしまって、でもどうしても触れたくて。
あなたの心に、触れたかった。
「好きにして、いいよ」
「………すげえ大胆」
「海真くんだけだよ。…海真くんだけ」
どこに拐ったっていい。
あなたがいっしょに連れていきたい場所に、好きなように私を連れていっていい。
「────……おれの、乃々」
お母さんに言おう。
藤原さんとはたまに連絡を取り合ってはいるから、まずは藤原さんがいいかな。
ちゃんと自分の気持ち、言いたい。
もし家から追い出されたとしても、縁を切られてしまったとしても。
「おれも、ののちゃんだけのおれだよ」
たとえぜんぶを捨ててまでも、
私はこの人を選ぶ───って。