孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




あの悲しすぎたピアノの音色は、きっとお姉さんへの後悔の音。



「おれ、家族みんなに置いていかれちゃったけど。……ののちゃんがこっちの世界にいるなら、おれはこっちのほうがいい」



初めて、彼の涙を見た。

言葉では言い表せないくらい綺麗だったから。


触れていいのか怖くなってしまって、でもどうしても触れたくて。


あなたの心に、触れたかった。



「好きにして、いいよ」


「………すげえ大胆」


「海真くんだけだよ。…海真くんだけ」



どこに拐ったっていい。

あなたがいっしょに連れていきたい場所に、好きなように私を連れていっていい。



「────……おれの、乃々」



お母さんに言おう。

藤原さんとはたまに連絡を取り合ってはいるから、まずは藤原さんがいいかな。


ちゃんと自分の気持ち、言いたい。


もし家から追い出されたとしても、縁を切られてしまったとしても。




「おれも、ののちゃんだけのおれだよ」




たとえぜんぶを捨ててまでも、


私はこの人を選ぶ───って。



< 186 / 335 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop