孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
背中に同じように回して、撫でる。
それだけでもっと力を込めてくる海真くんは、「ひとりにしないで」とすがり付いているようだった。
「閉じこめられるために、私はちゃんと話をしてこなくちゃ」
「……………」
「お母さんと」
帰ってくるよ、ちゃんと。
話をつけたらすぐに帰ってくる。
べつに向こうの了承なんていらないの。
“私はこうします”と、伝えてくるだけでいい。
その機会すら設けてくれないのだから、無理やりにも作るしかないんだ。
「でも……海真くんもいいの…?」
「ん、なにが?」
「引っ越し…。だってここのお家は、お姉さんとの思い出も詰まっているんじゃないのかな」
私はここでも不自由ない。
どんなに小さな声だとしても聞こえてしまうこの距離感が、私はすごく気に入っている。
「たぶんおれ、姉ちゃんが生きてたとしても同じ決断してたと思う。そんで姉ちゃんも賛成してくれるはずなんだ」
どんな人だったんだろう。
彼のお姉さんは、どんな素敵な女性だったんだろう。