孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「いいなあ~。あたしも引っ越したくなってき………ねえあなた。あたしたちも新しいところ考えてみるぅ~?」
「………今のとこで十分だろ」
「きゃーーっ!」
たぶんいちばん楽しんでるの、玖未さんなんだろうな…。
隙あらば店長さんの腕に巻きついては夫婦ごっこを満喫している。
「お家賃のほうは…」
「こちら管理費は別で11万2千円です」
「じゅ、じゅういちまん……」
それまでの私であれば、それで家に住めるのならば安い、だった。
お庭があって車庫があって地下もあるような、使用人とふたりで暮らすには広すぎる家に住んでいた私だったなら。
でも今の私は、そのときの私じゃない。
限られたお金のなかでどうにか遣り繰りをして、たまにちょっとの贅沢をする。
そんな生活をしている私なんだ。