孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「今日のご飯は?」
「今日はね、海真くんが好きな───……」
「…ののちゃん?」
言葉を止めて泣きそうな顔を向けてしまった私に、彼は屈みつつ優しく聞いてくる。
ここで、お仕事から帰ってきたあなたを迎えて。
こんなふうに毎日のように温かな会話があったなら。
たとえ喧嘩しても、すれ違って涙を流したとしても、それさえ“大好き”に変わるんじゃないかって。
「……ここが……いい…」
ごめんね海真くん。
セキュリティもしっかりしていて安心できるマンションをわざわざ見つけてくれたのに。
どれもいい反応をしてあげることができなくて、つまらなさそうに映ってしまったかもしれない。
あんなにも真剣に悩んでくれていたことを知っているのに、本当にごめんね。
「ここに…したい。ここで、海真くんといっしょに暮らしたい…」
「…うん。ここで暮らそう」
それから海真くんは、不動産屋さんにこの物件で進める方針を伝えた。
しかし私たちが思っていた以上に壁はまだあったのだ。