孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
下手くそな嘘
「海真くん、傘持ってるかな…」
ザァァァァと、すこし前から降ってきた。
今日は私はバーのお手伝いには行かず、家で彼の帰りを待つ日だ。
こういう日に勉強をすると決めていた。
不定期なふたりの時間があるときは、なるべくふたりの時間を作りたいから。
「遅いな…」
いつも帰るときはメッセージをくれる。
彼はとくに最近、学校よりもバイトを優先させていた。
単純にお金を稼ぎたいからなんだろう。
私としては学校で友達とお話する時間も大切にして欲しくもある。
でも、これが彼の選んだ道だった。
「───おれ、ちょっと本気で考えてることがあって」
傘を持ってバーまで迎えに来てしまった。
ドアの前、微かに開いた隙間から聞こえた声に立ち止まる。
「賛否両論はあると思う。だから相談ってよりは、おれの独り言だと思って聞いて欲しいんだけど」
“CLOSED”という看板がかかっているから、今日は雨ということもあって早めにお店を切り上げたんだろう。
それか、この話をするために店長さんがわざわざということも考えられる。