孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
彼を表すピアノ




カランカラン。

ドアの先にまず目に入ったものは、この規模には少し窮屈にも感じてしまうグランドピアノだった。


聞くところによるとドイツから取り寄せられたかなりの年代物らしく、飾りとしても一級品だという。



「休憩いただきましたー」


「なんだ戻ってきたのか、ミト。また勝手に帰ったと思って、客も帰っちまったぞ」


「ごめん店長。ちょっと話し込んじゃって」



みと……?と、聞いていた私はつい声に出してしまう。



「おれの苗字。フルネームは水渡 海真(みと かいま)っていうんだけど、どうにもみんなはミトのほうが呼びやすいんだとさ」



薄暗い店内にはバーカウンターがあり、カウンター内でひとり、20代後半~30代前半と思われる男性がグラスを拭いていた。


テーブル席は見渡すかぎり4つ。


屋上でしばらく話していたが、そろそろ彼の休憩時間も終わるとのことで、案内されて今。

飛び降りようとしたビルの6階、そのまた奥にあるお店に私は連れられていた。


ここは、バー……?



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