孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「……連れがいたのか」



そして店長らしき男性は、海真さんの背中に隠れた私に気づく。

とくに珍しそうにもしていないことから、すぐに視線は戻された。



「なんか飲み物用意してやってよ、店長。あ、お酒ナシで」


「それは俺の仕事じゃないな」


「えー。おれはほら、メインは演奏者だから」


「……客のリクエストには応えない、演奏時間も疎ら、自由気まま。この三拍子だけは揃えとくんだ」



コンセプトがしっかりあるのだろうか。

店内の雰囲気も服装も、どこか中世ヨーロッパ風味を感じる。


コットン製で作られたフロントクロスなトップスに、ズボンから繋がったサスペンダーは肩にはかけず下ろしていた。

足元は生地感がしっかりしていそうなワークブーツ。


それが、私を屋上からここまで連れてきた彼の服装だった。



「なんか飲む?ってか、とりあえず座って」



そう言われても、実際バーに来たことは初めてで躊躇ってしまう。



< 23 / 335 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop