孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「……連れがいたのか」
そして店長らしき男性は、海真さんの背中に隠れた私に気づく。
とくに珍しそうにもしていないことから、すぐに視線は戻された。
「なんか飲み物用意してやってよ、店長。あ、お酒ナシで」
「それは俺の仕事じゃないな」
「えー。おれはほら、メインは演奏者だから」
「……客のリクエストには応えない、演奏時間も疎ら、自由気まま。この三拍子だけは揃えとくんだ」
コンセプトがしっかりあるのだろうか。
店内の雰囲気も服装も、どこか中世ヨーロッパ風味を感じる。
コットン製で作られたフロントクロスなトップスに、ズボンから繋がったサスペンダーは肩にはかけず下ろしていた。
足元は生地感がしっかりしていそうなワークブーツ。
それが、私を屋上からここまで連れてきた彼の服装だった。
「なんか飲む?ってか、とりあえず座って」
そう言われても、実際バーに来たことは初めてで躊躇ってしまう。