孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
カウンターに置かれていたグラスをパシッと手にして、お母さんに降りかけようとした玖未さんの腕を。
冷静に止めたのは店長さんだった。
「はあ…。このなかではいちばん話が通じそうな方がいて助かったわ」
玖未さんの腕を掴みながら、いつの間にかカウンターの外に来ていた店長さんはお母さんと見合う。
「そちらは単なる親子の問題だとしても、こちらには店を守る義務がある。これ以上騒ぐようなら、うちとしても警察を呼ぶことになりますが」
「ギャーギャーと騒いでいるのはどう考えてもあたしじゃないでしょ」
「警察を、呼ぶことになりますが」
「っ、乃々。また近いうちね」
それだけ言って、お母さんは藤原さんを連れて出ていった。
沈黙がとてつもなく重い。
まずは謝らなくちゃ、みんなに。
玖未さんに店長さんに、海真くんに。
「ののちゃん、リクエストある?おれ今ならなんだって弾くよ」
「おっ、いいね~!シュウさん酒っ」
「…明日も仕事だろ。呑みすぎるなよ」
「なにそれ心配?うっそ、今あたしのこと心配してくれたよね…!?ってよりまずは乃々ちゃんの頬っぺたに湿布───」