孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
ポタリポタリと、大粒になっては頬を伝って落ちてゆく。
ピアノを弾こうとしていた彼は一旦やめて、私の身体をやさしく抱き寄せた。
「ここはののちゃんの味方しかいない」
「っ…、……っ、」
「…愛してるよ、乃々。おれぜったい離さないから」
このお店も、みんなのことも、あんなにも馬鹿にしてきた。
私が大好きな人たちを、大好きな場所を。
どうして自分のお母さんに馬鹿にされなくちゃいけないの。
「おかしいな…、いつも泣き止んでくれるのに。ぜんぜん止まんないね、ののちゃん」
もっともっと溢れる。
拭ってくれるたびに、私の涙腺はひとつひとつ切れていく。
「ノクターン……第2番…」
「…りょーかい。それ、おれたちの曲」
その演奏は、今まででいちばん心に響いたものだった。
なんとなく、もう彼の音は、あと何回聴けるかどうかだと思ってしまったから。
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