孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「ちょっと!!乃々ちゃんが居なくなったって……!!」



息を切らして駆けつけてきた玖未さん。

仕事を抜け出してきたのか、パンツスーツ姿で現れた。


この場所に来るときはだいたい着替えてメイクもガッツリなフル装備で、店長を口説いているというのに。


彼女は保険会社で働いている。

事務ではなく営業は天職だといつも言っているが、「結婚したらお店を手伝う」が店長への口説き文句だ。



「朝いなくなって、もう夜。もし事故に遭ってたら……とっくにニュースになってるわ」


「……山奥とか、樹海とか。その場合はならないだろ」


「それはない。あの子にそこまで行ける脚力と体力なんかないはずよ」



おれたちはまず、危ない目に遭っていないかどうかの不安が大きかった。

もし母親に連れ戻されたなら、それならまだ安心だ。


最初、死のうとしていた。


ののちゃんごめん。

それ、おれだけじゃなく店長と玖未さんも実は知ってんだよね。



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