孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
………いるんだ。
ここにあったかい布団があって、あったかい料理があって、ひとりで食べてるんだ。
この先もそれをするつもりでののちゃんは帰ったのだろうか。
おれのしわくちゃな腕のなかのほうが、ぜったい温かいだろうけどね。
「おや。誰かと思えばお友達じゃないか」
「………おまえ、」
そのとき。
通りかかった車が門のそばに横付けされる。
運転席から出てきた人物は、2度と会うことはないだろうと思っていた男だった。
「やっと帰ってきたんだ。僕のところに」
「おまえが余計なことしたの?ののちゃんに何を言った?」
「おいおい、勘違いはやめてくれないか。乃々は自分の意思で僕のところに戻ってきたんだよ」
「……そんなわけないだろ」
自分の意思?
もし本当にそうだったなら、ののちゃんは死を選びはしなかったはずだ。
それほど嫌だったから、あの日飛び降りようとしていたんだよ。