孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「…一朗太さん。そろそろお部屋に戻りたいの。この庶民をどうにか追い払っておいてくれますか」
「もちろんだよ。やっぱり乃々には僕じゃないとダメなんだ」
「───なら、せめてこれ貰ってよ」
ふたつの背中が止まった。
おれはポケットから4枚のチケットを取り出して、疑いながら手を差し出してくる財前を無視してののちゃんの前。
「クリスマス、ふたりで楽しんで。ああでも、オジョーサマはこんなとこ……嫌いかな」
遊園地のチケットと、ホテルの宿泊券。
庶民が笑顔で過ごすための招待チケットだ。
でもこれだって、庶民にとってはかなり贅沢な場所なんだよ。
毎日だなんて行けない。
年に何回か、特別な日にってとこ。
「ののちゃんはたぶん、好きだよ」
こういう場所も、イルミネーションも。
………おれのことも。