孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「…これがおまえにとっての、ののちゃんの価値ってわけ」
「なにを言う。きみに対するお礼だよ」
「だからそういうことだろ。おれからののちゃんを取り戻して、この金でぜんぶをチャラにしたってことだ」
いらないと、おれは押し返した。
強めに押し返したことでそいつは体勢を崩し、あのときの恐怖を思い出したのか少し怯えた顔に変わる。
「い、行くぞ乃々!僕たちはこれからお楽しみの時間があるからなっ」
「…これだけは覚えといて。───ののちゃんの初めてはぜんぶ、おれだから」
「っ…!!おまえぇ…ッ!!」
「……ッ、」
なんとも慣れていない殴り方で、財前はおれの腹に1発入れてきた。
膝をついたおれを置いて、震える足取りはどんどん進んでいく。
ねえ、だったらなんで泣いてんの。
今も泣いてんでしょ。
わかるよ、おれも泣いてるから───。