孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




ようやく今になってだった。


私は何をしているんだろうって、後悔に似た感情が襲ってきたのは。


あなたが悪いわけじゃない、
あなたには感謝している。

けれど帰らなくちゃ、帰らなくちゃ。


口が渇いてしまってジュースに手を伸ばすが、そこでも引っ込めてしまう。



「大丈夫だって。毒も睡眠薬もアルコールも入ってない。今日ここに来る前にスーパーで買ってきた激安オレンジジュースだから」



こういうことはしょっちゅうなのだと。

そのほとんどが自腹なわけだから、店長さんに文句を言いたいらしい。



「あの…、スマホとかって、貸してはもらえませんか」


「スマホ?いーけど。ああ…、電話かける?」



小さくうなずく。

私が座る椅子によく分からない体勢で寄りかかってくるのなら、向かい側にでも座ればいいのに…なんて。


すごくたくさん泣いてしまった。


初めて会った彼の腕のなかで、いっぱい。



< 25 / 335 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop