孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「…ダメです乃々さん。守りたいんでしょう、彼を」


「………ズルいね、藤原さん」


「……すみません」



守った結果、泣かせているの。


もしいっしょに逃げることを選んでいたら、そこには笑顔はあった…?

今のような涙は、なかった……?


そう考えてしまう私だってズルい。



「……藤原さんは、誰かを好きになったことはある?」


「…私はこの遠坂家の使用人になる前に……離婚しています」


「……理由、聞いてもいい?」



いいでしょ、それくらい。

と、強気な目を送ってしまった。



「…子供を産めない身体なんです、私」


「それは…体質…?」


「はい。でも結婚するまでは分からなくて。…夫は子供が欲しかったみたいで、すぐに別れました」



こういうところに人間らしさは出るんだと思った。

このリビングで我が家のように過ごしていた姿もまた、すごく人間らしいと思ったんだ私は。



「だからこそ私にとって乃々さんは……本当の娘のようだった」



8歳のときからだもんね。

それまではお母さんといっしょにパリに住んでいたけれど、お母さんのお仕事が忙しくなってからはずっと日本で藤原さんと暮らしていた。



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