孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「さすが遠坂さんだわ。音の厚みも安定感も完璧ね」
「…ありがとうございます」
「みんなも遠坂さんを見習って!」
バイオリンはそこまで得意ではなかった。
得意ではなかったけれど退屈だから、練習する時間が増えただけ。
気づけば3学期、春休みが近づく。
クラスメイトたちの前で発表をして心のない拍手をもらった。
「なによあれ。まえは補習ギリギリの点数を取ってたくせに」
「ね。きっと婚約者に愛想を尽かされそうになって必死なのよ」
そうだったらいい。
いっそのこと愛想を尽かしてくれたならいい。
それどころか毎日毎日と、彼の気分だけは上昇していくばかりだった。
会えなくなると、月日が経つと、時間が苦しさを消してしまうものだと思っていたけれど。
私の場合は逆だったみたい。
海真くんのことばかりを考えて、心配して、涙を流す。