孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「どうにもここのところ数日間はバーにも来ていないみたいです」
「え、家には…?」
「それが…私が見たかぎりではアパートのほうにも帰宅していないようで」
あれから藤原さんは、私が頼まなくとも彼の様子を見に行ってくれるようになった。
彼女なりの罪滅ぼしをしているらしく、そこについては私もあえて触れていない。
「乃々、今日はずいぶんとボーッとしているね」
「……あ…、ごめんなさい…」
そして最近になってとくに、学校が終わると婚約者が迎えに来ているようになった。
できればひとり静かに歩いて帰りたいのだけど、それを言ったなら彼の機嫌を損ねてしまう。
「それで、クリスマスの埋め合わせだけれど。どこか行きたい場所はあるかい?」
「……景色が…いいところに」
「わかった、乃々の春休みに合わせて探してみるよ。僕たちの結婚式についてもまたプランを考えなくてはいけないからね」
たぶんあなたがどんなに探してくれようとも、私はその場所を「最高な景色だ」とは一生思わない。