孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
優柔不断すぎることは分かっている。
ここまできたら、さすがにみんなを振り回している自覚だってある。
「私はあなたの期待には応えられない、こんな女です。自分のためをも思うなら……どうか婚約を破棄にしてください」
渋滞に停まっていた車から飛び出して、反対方向へと走った。
お財布もスマホも持っていない。
身体ひとつで飛び出してしまった。
『拐いにきたよ、オジョーサマ』
海真くんだってあのとき身体ひとつだったけれど、私を救ってくれるには十分だった。
バーに行くよりもアパートへと向かう。
必ずここに帰ってきてくれるんだって願って、座りつづけた。
「─────……おか……えり」
外は真っ暗。
かろうじて玄関前についている蛍光灯の明かりがひとつ。
そこでようやく、足音が聞こえた。
私の姿を目にしてから出た言葉か、それとも反射的につぶやいていたのか。