孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「ののちゃん」



おかえりって、言ってくれた。
変わらず名前を呼んでくれた。

唇の横に絆創膏、目の縁にも傷。


そして「おかえり」はしっくり来なかったのか、「ただいま」とも言ってきた。



「………いき……、てた………っ」



私はもう、ただそれだけで良かった。

ここに海真くんがいて、両足を付けて立って、泣きそうな顔を向けてくる。


地面にペタンと足を崩してしまってまで、私は顔を両手で覆った。



「……どうしたの…、ののちゃん」



どうしたのは私のセリフだよ。
どうしてそんなにケガをしているの。

どうしてこんなにも遅い時間に帰ってきているの。


藤原さん。
やっぱり海真くんね、少しだけ痩せてるよ。


きっと私だから分かることだったんだね。



「事故…っ、ニュースっ、見たの……っ」


「…事故?」


「17歳の男の子がっ、トラックに…っ、そ、即死って……っ」


「……おれが死んでると思った?」



< 266 / 335 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop