孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「ののちゃん」
おかえりって、言ってくれた。
変わらず名前を呼んでくれた。
唇の横に絆創膏、目の縁にも傷。
そして「おかえり」はしっくり来なかったのか、「ただいま」とも言ってきた。
「………いき……、てた………っ」
私はもう、ただそれだけで良かった。
ここに海真くんがいて、両足を付けて立って、泣きそうな顔を向けてくる。
地面にペタンと足を崩してしまってまで、私は顔を両手で覆った。
「……どうしたの…、ののちゃん」
どうしたのは私のセリフだよ。
どうしてそんなにケガをしているの。
どうしてこんなにも遅い時間に帰ってきているの。
藤原さん。
やっぱり海真くんね、少しだけ痩せてるよ。
きっと私だから分かることだったんだね。
「事故…っ、ニュースっ、見たの……っ」
「…事故?」
「17歳の男の子がっ、トラックに…っ、そ、即死って……っ」
「……おれが死んでると思った?」