孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「…嘘、下手すぎなんだよののちゃん」
「うそじゃない…っ、うそなんかじゃ、じゃないの……っ、海真くんのことっ、しか…っ」
「……うん。知ってる」
勢いよく引かれて、腕のなか。
かじかんだ身体だけじゃなく心までもが芯から溶けてゆく。
今まで強がっていた鎧はあっけなくも砕け散って、私は叫ぶように泣いた。
たまに私じゃない吐息も聞こえるから、海真くんも泣いているのだと。
「ごめん…っ、いっぱい、ごめんね…っ、ごめん……っ」
「…やだよ」
「ゆるしてっ、おねがい……っ、ごめん、海真くん、かいまくん…っ」
「……やだって」
ぎゅうっと、つよく抱きしめられる。
言葉ではそうは言っているけれど、「いいよ」と聞こえて仕方なかった。
「おれなんかが死んだところでさ…、結局はあんな男を選んだののちゃんなんだから……そこまで悲しむことないじゃん」
「かな…っ、しむ……っ」
「…だっておれ、金もないくせに結婚とか言って…、馬鹿みたいなんだろ…?」
「っ、ちが…っ」
改めて言われると、自分がどれだけ最低なことを言ってしまったのかを理解する。
許して、なんて軽々しく言った私のほうが馬鹿みたいだ。