孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「…ののちゃん」



嘘ついた。

私には本当のことを言ってくれなかった海真くんが優しく思えてくるほど、私はひどい人間になった。


でも、でも────、



「ほんとうは…、ここにいたかった……っ」


「…うん」


「お母さんがっ、お母さんがね…っ」


「うん」



ぜんぶを話した。


お金の力で私の周りのすべてを潰そうとしていたこと。

守るためには、海真くんに嘘をついてまでもお嬢様に戻るしかなかったこと。


でも結局はやっぱり、できなかったこと。


なにをするにしても考えてしまって、いつも心配で、ここにずっとずっと帰ってきたかったこと。



「でも、おれもののちゃんに嘘ついた」


「……うん」


「…アパートの審査、ほんとは通らなかったんだ。でも格好つけて……順調って嘘ばっかり言ってた」


「…ちがう…、それも違うの…」



それさえ、お母さんが裏で手を回していたことだったんだ。

これは最近になって藤原さんに教えてもらったことだった。



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