孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「…ごめん。今日は優しくできそうにない」
変なこと言うんだね。
こんなにこんなに、優しいのに。
「海真くん───…泣いているの」
「……嬉しいのか悲しいのか、もうよく…わかんないから」
「…うん」
「けど、しあわせだよおれ」
その言葉を聞いて、今度は私が涙を流す。
朝が来ないんじゃないかって、本気で思う。
世界にふたりだけなんじゃないかって、この夜に生きるのは私たちだけなんじゃないかって。
暖房もついていない部屋で、ふたりの体温だけで身体をあたため合う。
ここが私の夢の国なんだ────……。
「……藤原さん、」
深夜1時を回った頃、ベッドから身体を起こして、小さく小さく電話をかける。
『財前さんには、私から言っておきました』
「え…?」
『恭子さんにも私から言っておきました。
……いいかげん乃々さんを解放してあげてください、と』