孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
私の肩が震えていたからか、それに気づいた海真くんが包みこむように抱きしめてきた。
『私のレシピを作って、たくさん彼を笑顔にしてあげてください。こちらのことは……できるかぎり私がどうにかしますから。もうすぐ春休みです、学校はもういいでしょう』
なにか必要なものがあったら送るので、言ってください───、
「……ありがとう…っ」
久しぶりに彼女のことを「お母さんみたい」だと思った。
本当の母親は昔から仕事最優先なひとだったから尚更、とくに小学生のときの私にとっては藤原さんがお母さん。
久しぶりにあのときの感覚を思い出した。
「また…、ここにいっしょに暮らしてもいい……?」
「……………」
「…海真、くん……?」
「…もうぜったいおれを置いていかないって……約束して」
置いていかない、約束する。
もうぜったい、ひとりなんかにしない。
私はここにずっとずっといるよ。
「────……やったね」
その少年みたいに笑う顔が。
大好きな大好きな笑顔が。
近いうちに見ることができなくなるだなんて。
声を聞くことも、抱きしめてもらうことも、名前を呼んでもらうことも。
私が呼ぶと返事をしてくれることも、ぜんぶ、ぜんぶ。
─────……できなくなるだなんて。