孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
私は呼吸をすることにいっぱいいっぱいで、震える全身でどうにか立っていることが、涙の代わりだった。
「…かいま……くん……」
このひとは、ほんとうに海真くんなの……?
集中治療室でたくさんの装置に囲まれて、酸素マスクや数種類の管を取り付けて目を閉じる彼は。
頭部と腹部に巻かれた包帯、せめて抗ったのだろう唇の横の傷。
手のひらには赤色がべったりと付着していた。
「ナイフが刺さったままだったことが不幸中の幸いでした。もし引き抜かれていれば……100%で助かっていません」
命は救った、と。
この状態で救った、と。
お腹に刃物を通された彼は、数メートルは歩いた痕跡があったという。
地面の血痕が、私のところへ帰ってこようとする唯一の愛だった。
「……ッ、あぁぁ…っ、ああ…、あぁああぁぁあああ………っ」
ここで信じられない涙が出た。
信じられない理由で、信じられないほどの、信じられない現実を前に。
やっぱりいっしょに行くべきだったんだ。
もう離れたらダメだったの。
だめだったんだよ………離れちゃったら。