孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「行こう、ののちゃん」



ジュースを飲み終わってグラスばかりを見つめていた私の腕が引かれる。

けれどすぐにそういえばと、彼は私の足元を気にした。



「店長、なんか女の子の靴とかってない?」


「靴?…ああ、そういや前に酔っぱらって忘れてった客のがあるな」


「それでいーや。……あ、それでいい?大丈夫?」



誰が履いていたものか分からなかったとしても、さすがに断るなんてできっこない。


途中で脱いで捨ててきた靴。

よくここまでケガなかったねと、先ほど言われた。



「い、いいんですか…?持ち主が戻ってきたり…」


「へーきへーき。もしそこまで大事な靴だったら、たとえ酔っぱらったとしても置いてく?」



言いながらさっそく私の前に置いて、まるでどこかのおとぎ話のように履かせてくれる。



< 29 / 335 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop