孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




ドクドクドクと、傷口からなのか心臓からなのか、死というものに必死に抗う音が響く。



「…のの……ちゃん……っ」



指輪、買ったんだ。

物欲とかそこまでなかったおれが、人生でいちばん金かけたかもしんない。


でも、これだけはね、これだけは。
男としてもしっかりしたかったから。



「のの………ちゃ、」



ののちゃん、ののちゃん。
また帰ってきてくれて、ありがとう。

おれをひとりにしないでくれて、ありがとう。


ご飯、いつも作ってくれて。
おれのために、作ってくれて。


こんなおれの家族になってくれるって、言ってくれて。



「はっ……、はーー………っ……」



ありがとう、しかないや。

あとはそれ以上の「ごめん」かな。


別れは突然来るものだって分かってたはずなのに、慣れるものではないんだよな。


おれか。
つぎは、今度は……おれの番か。



『海真』



姉ちゃん………?


おれさ、前までは早くそっちに行きたいって思ってたけど。

おれ、もうちょっとこっちに居たいかも。



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