孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
『海真』
父さん、母さん。
もうあまり顔、記憶のなかでは覚えてないんだ。
でもおれ、ピアノ弾いてるときだけはなんとなく思い出すんだよ。
────………まだ…、死ねない…。
あの子を置いて死にたくないよ…、おれ。
「…ま…だ……、」
まだ、まだ、叶えたいこといっぱいあるんだ。
行きたい場所だってあるし、いろんなことを約束していた。
「…は……っ、…………くそ……ッ」
こんなところでひとり寂しく死ぬとか、おれ嫌だよ。
おれが望む最期は、しわくちゃなきみが涙を流しながらゆっくり目を閉じていくところを抱きしめながら見届けて、おれもそのあと目を閉じるんだ。
せめてあの子の顔が見たい。
頼むから止まってくれるなよ────……、
「っ……、のの………」
って……、だれ………だっけ…。
ドサッと、倒れる。
ものすごい距離を歩いたつもりだったけど、まだトンネルを抜けていない時点で。
「……乃々………、あい………る、よ、」
愛してるよ、ののちゃん。
ずっとずっと、愛してるよ。