孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「これさあ…、靴擦れ起こしそう。サイズちょっと大きいじゃん」


「…大丈夫、です」


「んじゃあ、おれと手ぇ繋いでこ」



私が答える前に実行する人なんだな、と思う。

オレンジジュースもそうだったけれど、私がなんでもいいと言う前には用意されていた。


そして帰り道は比較的静かな道を選んでくれた海真さん。


知る人ぞ知る裏道なのだと。

ただ私ひとりのときは絶対に通ってはならないと忠告を受けた。



「海真さんはいつもここを通ってるの…?」


「うん。じゃないとホストからスカウトきまくって、歩いてるだけで疲れんの」


「ほすと……?ポスト…?」


「………うん。ポストだよポスト。赤いやつ。郵便物とかさ、おれむしゃむしゃ食べるから」



たまに車から見かけるものだ。

とくに利用したことはないけれど、存在自体は知っていた。


あれは人間もなれるものなんだ…。



「その服は…、自分で揃えているんですか…?」


「ん?ああ、これ?」



速度が少しだけ落ちた。

ただ私を早く帰らせないといけないと思っているのか、止まることはない。



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