孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
『───それは一朗太さまの想いは愛ではなく、執着だからです』
そう言って、財前さんが手にしていたカッターナイフを奪って私に向けてきたのは、彼の使用人をしている岡林さん。
『っ、なっ、なにをする気だ岡林……!!』
『乃々さまもあなたにとって恨みの対象でしょう。ですから、私があなたの代わりに今度は彼女を殺してみせます』
『………や……、やめるんだ、』
カチカチカチと刃を出して、私へと。
ゴクリと息を飲んだ私は逃げることをせず、立ち尽くしていた。
岡林さんは私の大動脈を本気で突き刺すつもりで見据えている。
『やっ、やめろおッッ!!』
目をぎゅっと閉じたとき、痛みはなかった。
ゆっくり開いた先に、寸前で止まっている刃先。
財前さんはベッドから落ちてまでも腰を抜かしていた。
『ここで止めないのが執着。ここで止めるのが………愛です』
海真くんは刺された。
カッターナイフなんてものじゃない。
一刺しでお腹を貫通してしまうほどの、鋭いナイフで。