孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
でもきっと、こういうのが楽しいんだよね。
先生に秘密でイタズラをするような、高校生らしいことが。
世間知らずなお嬢様にぜんぶぜんぶ教えてくれたのは、きみなんだよ。
「てか、のっちゃん。ミトって本当に海外に留学しに行ったの?」
「……うん」
「また急な話すぎない?」
「…海真くん、すごくピアノが得意でね。本場でずっと学びたかったんだって。高卒認定ならいつでも取れるから」
「え~、ピアノ!ギャップすごっ!まって、ドイツと日本とかちょー遠距離っ!そんなの楽しんだもん勝ちじゃんね!」
そういうことになっていた。
決してみんな、彼がいま集中治療室で眠っていることなど知らない。
大丈夫、心は繋がっているから。
声が聞けなくても、笑顔が見られなくても、心は繋がっている。
私は今日も生きているよ、海真くん。