孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「店、移動しようと思ってる。ビルじゃなく戸建てを買って、もっといろんな人たちが訪れやすいカフェバーにする予定だ」
「…え、あのビルじゃなくなっちゃうの?」
「いずれはな。さすがに家族も増えて少し手狭になってきた」
その家族は、私も含まれているんだろう。
たまに私が紗彩や藤原さんも呼んで賑やかだから、店長は参ってるかも……とは、不安だったけれど。
まさかそんなふうに考えてくれていただなんて。
「乃々が高校を卒業する頃にはと考えてる。そしたら正社員で雇ってやるつもりだから、考えておいてくれ。…海真もいっしょに」
ピアノはもちろん置くでしょう?
あのピアノはお店の顔であり、あのピアノに座って弾ける人はひとりしかいない。
「またいっぱい…、賑やかになるね」
涙を拭って、笑顔をつくる。
こんなにもかけがえのない宝物を私に与えてくれた彼を、心の底から愛しく思う。