孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「頼れよ。なんでもいいから」


「…うん。ありがとう」


「うちの店の名前、知ってるだろ」


「うん。知ってる」


「なんて名前だ」



口ずさむように、言う。

ドアの前に飾られている名前は、いつからか見るたびに温かい気持ちになっていた。



「元お嬢様の乃々なら、意味は分かるよな」


「……イタリア語で───家族」


「…大正解」



あのおとぎ話には続きと捕捉があったんだ。


お嬢様は盗賊さんに拐われたものだと思っていましたが、じつは盗賊さんの正体は王子様だったのです。


お嬢様はずっと求めていた温かい家族もできました。

そこで笑い、幸せに暮らしました。


対する王子様は、この世でいちばんの宝石を手に入れたのです。


それはお金よりもずっとずっと価値があるもの。



愛という、限りのない宝を───。



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