孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
𝑒𝑝𝑖𝑙𝑜𝑔𝑢𝑒




今日は何がいいかな、海真くん。

天気もいいし、爽やかな曲がいいよね。


スマートフォンと連動させることができる手持ちのスピーカーを操作して、心地のいい音量で流す。



「それで、初めて作った料理は肉じゃがだったね。そうそう野菜の詰め放題。私ぜんぜんできなくて、結局は海真くんにやってもらって…」



クスクスと、花瓶の水を入れ替えてくれた看護師さんは微笑ましそうに小さく笑う。


私のお話を聞いてくれるのは海真くんもだけれど、じつは看護師さんたちのほうが楽しんでいる節があった。


そりゃあ面白いよね。

お嬢様が慣れないことばかりをして、普通で当たり前なことにいちいち驚く物語だなんて。



「でも今は任せて海真くん。もし袋が破れちゃったとしても“そう見える錯覚です”で押しとおせるの、私」


「ふふ。乃々ちゃん、それって大丈夫なの?」


「えっと……、ギリギリセーフってことにしてもらってます」



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