孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「───……乃々ちゃん…、乃々ちゃん」
いつも私たちが話していると涙を流す看護師さん。
看護師になって7年目、休日は婚活と合コン三昧の敗戦エピソードはいいかげん飽きちゃった。
そんな彼女はいつも言ってくれる。
私がいないとき、彼のスマートフォンに入った私の写真を近づけると、海真くんはどことなく優しい顔をするんだって。
「乃々ちゃんっ」
「どうかしました?あっ、もしかしてまた合コンのお誘いでもきたとか」
やっと探していた曲を見つけて再生ボタンを押したとき、「目が開いた…っ」と、看護師さんの消えそうな声。
すぐに周りの看護師たちも気がついては動き出す。
「…………え…………?」
コールボタンを押して、誰かが主治医へと知らせた。
看護師さんたちは涙を流しながらも、慌てつつ落ち着いて、医者として生命維持装置や彼自身を確認する。
「────………、っ、」
スマートフォンもスピーカーも落としてまで、私は咄嗟に彼の手を握った。
握り返してくれるほどの力はなかった。
なかったけれど、微かに、ほんの小さく、私の指を確かめるように動かしたんだ。
ずっと開かなかった目は、確かにいま、私の目の前で開いている。