孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




どう見えているだろう、この景色は。

きみに、どう見えているんだろう。




「………………ぼ……く…………は……」




僕は、だれですか────、

まず最初に私を見つめた彼は、そう言っている顔だった。


そのあと瞳を揺らして、苦しそうに眉を寄せるから。




「────おはよう、海真くん」




私はやさしく、やさしく、微笑む。


あなたは海真くんっていうの。

びっくりしちゃうよね、急にそんなこと言われたって。


きっと私のことも誰?って感じだよね。



「……か……い………ま………?」



しゃがれた声。
話すことにも精いっぱいな、声。

4ヶ月近く昏睡状態に陥っていたのだから、当たり前のことだ。



「そう。…あなたは海真っていうの」



おはようの次は、こんにちはって言えるようになろう。

そしたら今度は久しぶりって言って、またねを言うの。


そうやってひとつひとつ、いっしょに歩いていこう。



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