孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
まずは屋上から始まって、つぎにバーへ行こう。
いっしょに手をつないで歩いて、私たちの家でもあるアパートへ行って。
“ねこふんじゃった”をいっしょに弾いて、コンビニで買ったおにぎりとパンをふたりで食べて、いっしょに笑いあおうね。
そのあと学校へ行って、夜の体育館でバスケットボール。
きっと先生が探しにくるから、ステージ裏に隠れるの。
ふたりで夜の学校をお散歩するんだ。
100円ショップに激安スーパー、ファストフード店。
私たちがいっしょに歩いてきた道を、何度も何度もふたりで辿っていこう。
それは戻っているように感じるかもしれないけれど、確実に前に進んでいるの。
「……ノノ…、…ノノチャン………、ッ、…ノノ、ちゃん………っ」
「……先生、彼は記憶を取り戻しているんでしょうか…?」
「…いや、思い出の残響のようなものだろうね。ただ……そうではないと、僕は思いたい」