孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「ノクターン 第2番」



音が止まる。

冷蔵庫から何かを見つけてきたことよりも、私が演奏していた曲名を言い当てられた。


と言っても、知っている人なら誰だって知っているショパンの有名どころだ。


たとえ曲名を知らなくても、ピアノに興味がなくても、きっとみんな聞いたことくらいはある。



「好きなの?」


「…うん」


「やっぱオジョーサマって弾けんだね。ドラマとかのイメージのまんま」


「……お嬢様じゃ、ないよ」


「使用人がいるならオジョーサマだよ。そのドレスも、見るからに素材から本物って感じ」



すると彼は右手だけを鍵盤に乗せた。



「おれ主旋律弾くから、左手できる?」


「は、はい」



最初はぎこちなかったけれど、こちらが追いけなければ主旋律だけで演奏されてしまう。

どういう弾き方をしたら片手だけでそこまで音が伸びやかに膨らんで、強弱の付け方も完璧にできるの。


必死だった。


素人と玄人、はっきり違いが分かってしまうのだから。



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