孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「ねこ、ふん、じゃった~」



ノクターンのはずが、どういうわけか主旋律さん、気づけば曲が変わっている。

本人も楽しそうに口ずさみ始めた。


「合わせて」なんて言ってくるから、最後はお遊戯会となって幕が閉じた。



「…やっぱりすごく上手なんだね」


「まあね。ねこふんじゃったはおれの十八番。作った奴の人間性を問い質したいくらい残酷すぎる歌詞だけど」



………そっちじゃなくて。

ノクターンのほうをどんなに褒めたところで、同じように逸らされてしまいそうだ。


そして「ごめん」と、どうしてか謝ってきた。


目を向けてみると、左手に抱えていた食べ物のことを言っているようで。



「ひどいよ、ほんと。おれ最低。賞味期限切れたパンとおにぎりしかなかった」


「……………」


「1日って大丈夫だと思う?これ昨日までのなんだけど、やばいかな?おれはね、ぜんぜん余裕なんだけど」


「……ふふ」



初めて笑顔がこぼれた。

私からの音を聞いて、私からの言葉を待ってくれている。



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