孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




使用人が家政婦のように動いてくれている我が家では、ぜったいにお惣菜などは出されない。

メニューも必ず5品は揃えられて、栄養だって考えてくれている。


そして今日のように何か特別なことがある日なんかは、必ず一流シェフの料理が出されるような生活だ。



「…おいしい……」


「冷蔵庫に入れっぱだったから、ちょっとご飯固いと思うけど。あっ、待って。明太子ってナマモノじゃん、やば。ナマモノのほうが危ないかも。おれのと交換する?」


「…ううん。おいしい」



いらないよ。

一流ホテル勤めでフランス帰りの、イタリア帰りの、そんなシェフなんか。


今まで食べたご飯でいちばん美味しいかもしれない。

冗談抜きで、いちばん。



「ここで……ひとりで住んでるの…?」


「うん。ひとりで住んでる」



いつから?
どうしてひとりなの?

家族はどうしているの……?


私が屋上から飛び降りようとしていた理由を聞かれなかったのだから、私だってそうするべき。



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