孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「なら食器とか揃えとくよ。明日の夜までには揃えとく。えーっとあとは何が必要?
ああ、柔軟剤とかシャンプーとか?ちょっと高いの買っとけばいい?」
「か…、海真さん、」
「呼び捨てでいーよ。敬語もいらないし、なんか同い歳に敬語されると痒くなるじゃん。年下からいきなりタメ口は腹立つけど」
「…かいま、くん」
せめてこれはどうかなと呼んでみると、気に入ったようでまた会話は少し前のものに戻る。
揃えるもの、掃除しておく場所、押し入れは私の荷物が入るように開けておく、と。
私が想像していたよりも、彼のほうがリアリティーあるシミュレーションをしていた。
「ご、ごめんね海真くん。ちょっと……言ってみただけなの」
「………ああ、そっか」
私はきっと、彼に最低すぎることを言ってしまったんだ。
ちょっと言ってみただけ、にしては無責任すぎる。
「おれも…言ってみただけ」
びっくりするくらい、消えそうな声だった。
それからはタクシーで無事に送り届けてもらい、私の家を見上げた彼はコロッと元通りな様子で「おれのアパートの何戸ぶん?」なんて言っては笑っていた。