孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
『また……会える…?』
『…おなじ地球に住んでんだよ?しかも日本のなかでもこの街って。どんだけ神様にプレゼントされてんだろーね、おれたち』
タクシーを出る寸前、彼はそう言って微笑んだ。
「指……、きれいだったな…」
ピアノを弾く姿が、今でも忘れられない。
あれはピアノで生きている人の手だ。
そういう人は本当にいて、見ているだけで一体化してるんだろうなって思う。
また会いたい。
忘れられちゃう前に、会いたい。
「遠坂さん。今度うちで演奏会があるんだけれど、よかったら来ない?」
「……私はバイオリンとかもそこまでじゃなくて」
「ああ、いいの。観客として来てほしいだけだから」
エキストラのひとりになってくれ、と。
そうならそうと正直に言えばいいのに。
親睦の浅いクラスメイトの誘いを柔らかく断って、私は教室を出た。