孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「おれね、定時制の高校に通ってんの」
それも聞いたことはあった。
私はやっぱり何を聞いてもその程度で、自分がどれほど一般的とは程遠い生活をしているのかを実感する。
「ほとんど一部と二部に行くようにしてるから朝と昼だけなんだけど、三部のが気が合う奴らばっかでさ。たまに夜も行ってんだよね」
相づちを打ってはいるけれど、よく分からない。
とりあえず1日のうち何時間かに分けて授業が行われる制度らしい。
「だから今日はこれから学校で、それ以外はバーでバイト」
「…いいな……」
「え?」
「アルバイトとかも、ずっとしてみたかったから」
でもお金を払う機械の使い方もろくに分からないような人間ができるわけないねって、自嘲する。
「…すればいいのに」
「…………」
「って、軽々しく言うのはぜったい良くない。できたらとっくにしてるだろうし、自分にないから羨む気持ちがあるわけじゃんね」
私は言葉なく目を伏せて、ブオオオンと響くドライヤーの音をずっと聞いていた。