孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




定時制のなかでも三部と呼ばれるものは、夜間に授業が行われる。


そもそも定時制高校は昼間働くためだけじゃなく、“仲良くみんな一緒”というものが好きじゃない子たちの集まりでもあると、海真くんは言っていた。



「死ねはダメ」



そのとき立ち上がったのは海真くんだった。

握ったこぶしを振り下ろそうとしていた男の子の腕を、ぐっと掴む。



「…離せよミト、」


「ウザいとかブスはまだかろうじて良いけど。…死ねはダメじゃん」


「それはこいつがっ」


「死ねは駄目だろって言ってんだよ」



喧嘩が終わった。

海真くんの静かな威圧に、ここで音を出すほうが目立ってしまう。


そんななか、本人だけはいつもの調子で私が座る隣に戻ってきた。



「ののちゃん、ちょっと一緒に職員室いこ。おれ先生に呼ばれてたんだった」


「え…、でも…授業、」


「すぐ戻るから大丈夫。行くよ」



5分前のチャイムが鳴ったと同時、私たちは教室を出た。

これで遅れて海真くんの成績が落ちちゃうとかって、ないよね…?



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