孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
そしたら私がなんとか言おう。
彼は私の命を救ってくれた恩人です。
そしてクラスメイトたちの喧嘩も止めていました、って。
「海真くん?ここ、職員室…?」
「ではないね」
「そうだよね…?戻らなくていいの?」
「夜の体育館って、ちょっとドキドキしない?」
そう、連れられた場所は職員室とは正反対。
しーんと静まり返った体育館。
証明の付け方は分からないみたいで、彼はこの薄暗さでなんとか乗りきろうとしていた。
「じゃあ、ののちゃんはおれからボール奪って」
ステージ裏から持ってきたらしいバスケットボール。
トントンと慣れた手つきでバウンドさせて、海真くんは軽いステップまで踏み始めた。
「わっ!今のずるい…!」
「ズルくないでーす」
「海真くん止まって……!」
「はい分かりました、にはなりませーん」
早くも息切れする私。
余裕綽々な海真くん。
私が履いている上履きだって、どこかの誰かさんから借りたものだ。
こんなこと人生で1度も経験しないどころか、考えたことすらなかった。