孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「今夜のパーティーの件ですが、恭子(きょうこ)さんは乃々さんにご挨拶をお願いしたい、とのことで」
「…私が、するの。お母さんのお祝い事なのに」
「きっと愛娘である乃々さんを皆さんに紹介したいんだと思います」
ちがう。
娘として恥をかくな、ということだ。
この使用人も本当は分かっているくせに、昔から私の機嫌を取るためならば平気で嘘をつく。
きらいだ。
母親も、この使用人も、みんなみんな。
「今日は財前(ざいぜん)さんも参加するようですから」
いま名前が上がった私の婚約者らしい男も、きらい。
好きでもない、ろくに親しく話したこともない男性との婚約を無理強いさせられている私だった。
「………たい…」
「え…?なにかおっしゃいましたか…?」
「…ううん」
もう、ぜんぶぜんぶ辞めてしまいたい。
毎日毎日やりたくもない勉強をさせられて、行きたくもないお嬢様学校に通わせられて。