孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「遅くなってごめん。お母さんとかに怒られたりする?」
「…ううん。お母さんは日本にいないから」
「……そっかー」
時刻は22時ちかく。
門の前まで送ってくれた彼は、「いつでもメッセージ送ってくれていいから」と言って、手を振りあった。
藤原さんは滅多に怒りはしないから大丈夫だとは思うけれど、どこで誰と何をしていたかを聞かれたらどうしよう。
そう思いながらゆっくり、玄関を開ける。
「ああ、平気よー。奥さんはアメリカだし、娘のほうは最近グレ始めたっていうかね~」
どうやら使用人は、誰かと楽しそうに電話をしているらしい。
「この家は半分私のものみたいなものね。ほんっと優雅な時間だわあ~」
大きな革製のソファーに座って大画面のテレビを見て、冷蔵庫に入っていたスムージーを飲んで。
高い天井にあるファンライトを言葉どおり優雅に見上げている。
まるで当たり前のように過ごしている姿は、普段の使用人とは思えないほど。
「…ただいま」
「っ!!乃々さん…!なんだ、帰っていたんですね…!あっ、どうしよう、ご飯はどうしますか…?」
「……食べてきたから大丈夫だよ」
「そ、そうですか」