孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
私が食べたいものは、欲しいものは、冷蔵庫を漁ったときに唯一残っている賞味期限の切れたおにぎりやパン。
それを会話と空気感を楽しみながら、穏やかに食べられるような彼との時間だ。
「ほら、着いたよ」
あたり一面に広がった湖。
ウェディングにも使用される広々としたホテルは、湖上のテラスから一望できる仕様になっていた。
もちろん今日は貸し切っているらしく、なかにいるシェフたちは私たちのためにコース料理を奮ってくれるのだと。
「どうだい?味のほうは。彼は世界的にも有名なフレンチを代表する三ツ星レストランのオーナーもしていてね。僕の家も昔から世話になっているんだ」
「……味が……しない」
「え?ははっ、おやおや、またワガママお嬢様が出てしまったかな。シェフ、気にしないで」
ほんとうに味がしない。
美味しさをまったくと言っていいほど感じられない。
目の前に座る大嫌いな人間と、自信満々な顔で見守る嘘ばかりの人間たち。
形だけを取り繕って、お金ひとつで右にも左にも動く。
………もう、うんざりだ。