孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました財前さん」
とでも言っておけば。
ほら、簡単に気分はよくなってくれる。
なるべく湖だけを見ていた。
隣にいる男性は、海真くんを想像して。
「これってぜったい海じゃん」なんて言いそうだと思うと、ふふっと知らないうちにもこぼれる。
「…乃々」
しかし婚約者には、どうにも勘違いをされたようで。
サァァァと、血の気が引く音がした。
展望デッキから湖を眺めていた私の背後に立ったかと思えば、腕を回してくる。
「財前さん、そろそろ……帰りませんか」
「もう少しいいじゃないか。ほら、僕たちは恋人らしいこと、あまりしたことがなかったと思って」
「恋人…では、ないです」
どうやら私はそんなことを言ってしまっていたらしい。
恋人なんかじゃない。
ただ勝手に決められた婚約者というだけ。
顔を合わせる前から決められていたの。
恋人というのは、お互いが一緒にいたくて作る、特別な関係のことだ。
当てはめないで。
私たちなんかを一緒にしないで。