孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
『ののちゃん、いま室内?外じゃない?』
うん、家のなかだよ。
ベッドにくるまって、もうぜんぶぜんぶ忘れたいの。
『今日はどこにも行く予定ない?もう寝るだけ?』
ないよ、ない。
明日はどうせ休みだし、藤原さんはリビングで好きにしてるんじゃないかな。
時刻は20時半を過ぎていた。
『ののちゃんの部屋ってさ、もしかして出窓がある部屋?』
その質問に「うん」とだけ答えて、電話は切れた。
ガヤガヤと騒がしかったから、お仕事中にわざわざ出てくれたんだと思う。
それから30分もしないうちだった。
彼と交わしたメッセージを読み返していると、窓にコツンと、軽い何かが当たったような音がする。
「かぜ……?むし…?」
1度じゃなく何度か聞こえたから、とうとうベッドから身体を起こした。
すると今度はトントンと、明らかに誰かが窓を叩く音。